Japanese translation Issue

長文書き散らしにもかかわらず早速のご返信ありがとうございます。こちらも日本語でお話しさせていただきます。

まず、全体的な話になりますが、名付けの良し悪しについて、これまでの議論をながめる限りいくつか判断の軸があると思います。

  • 響きが良い、かっこいい ←→ しっくり来ない、ダサい
  • 学術的に正確である ←→ 間違い、事実ではない
  • わかりやすい、平明 ←→ 読みづらい、難しい

これを踏まえてまず自分の立場を述べると、まず史実を題材にしたゲームであることから、一番正確な表現でなくとも、最低限嘘は絶対に避けたいと思っています。その範囲でなるべく他の基準も満たすような名付けをしたいですが、嘘を回避するためならその他の点は多少犠牲もやむなし、という視点で以下議論していきますので、ご了承ください。

「まさかり」という言葉があまりこういう場面では出てこないという点では同意です(金太郎くらいか…)。しかし、まさかりと斧には、少なくとも機能面で脚立とはしご程度の差はあると思っています。そこで、「斧」はおっしゃる通りデフォルトでは武器寄りなので、ここでは「まさかり(/マサカリ/鉞)」が最適だと考えています。また、字面の問題であれば、「刃広斧」という言い方もできますし、やや正確性には劣りますが、「手斧」(と書いて「ちょうな」と読む)と言い換えてもいいかもしれません。

AOEでは独立のユニットと化していますが、本来の意味的に「斥候」は役割、つまり臨時に偵察に出す兵のことで、兵種ではないと思います。なので、斥候を専業とする人間を作るという意味ではテクノロジーとして意味のある名前だと思います。ただ、挙げてくださった「斥候訓練」というのはとても達意の訳だと感じますので、正直それに変えてもいいように思いました。

中国の歴史的建造物のネーミングについてですが、個別例の前に、英語の語形との対応について若干認識の齟齬があるような気がしたので、自分の見解を述べておきます。

まず一般的に、中国語(や日本語)と英語のような遠い言葉の間の翻訳では、しばしば意訳が生じます。先に三国志などの例を挙げましたが、逆もまたしかりで、例えば “sheriff” は語源的には「郡代官」ですが、アメリカの文脈では「保安官」と訳されます。また、イギリスの “The College of Arms” または “Heralds’ College” という機関は、ベタに解釈すると「武具(官)会」とか「伝令官会」のようになりますが、日本語ではどちらでもなく「紋章院」です。また、現代でもIEEEという組織は正式名称を直訳すると「電気電子技術者研究会」のようになりますが、普通は「米国電気電子学会」となります。
何が言いたいかというと、こういう翻訳の例では、訳した側の用語はより実態に即して、端的に分かりやすくなり、そして文脈に依存するような情報は消えます。特に原語の歴史が古く意味が変質しているものでは顕著です。日本語の「大名」や「文部省」を文字通り英訳しようとするとかなり面倒なことになるでしょう。こういう場合、訳に書かれた言葉だけを拾って何も補わないならば、むしろ書き手の意図に反する場合があり、誤訳と受け取られかねません。例えばアメリカが舞台で “in the Civil War…” とあれば「あの内戦の時」ではなく必ず「南北戦争の時」ですし、日本語の「着物」は文字通りにはすべての服装を指すはずですが実際は99%「和服」の意味でしょう。

以上を踏まえてですが、「翰林院」「水運儀象台」はやはりこれが理想だと思っている、というよりこれ以外にあまり選択肢はないのではないかと思います。
「翰林院」は歴代王朝に引き継がれたもので固有名詞ではなく、中国史の文脈で Academy といえばまずこれです。また、原訳である「帝国アカデミー」は「帝国」が近代語であること、「アカデミー」が近代西欧の類似機関を指す用語であることを考えると限りなく嘘に近いチョイスなので、こちらははっきりと良くないと思います。漢字が難しければ「学士院」かなと思います。
「水運儀象台」は1つしかなかった建物なので固有名詞ですが、Song Dynasty の Astronomical Clocktower といえばこれしかないと思います。「天文時計塔」も総称として間違いではないですが、絵面は完全に実在のそれなので、訳がリサーチ不足と思われて印象が悪い恐れがあるように思います。(余談ですが、ゲーム内ではなぜか攻城兵器を生産する場所なので、名前の意味は最悪わからなくても構わないかなという気持ちもあります)

「長城関」に関しては、できるだけ一塊の単語に見えるよう考えたのですが、詰めすぎであれば、「長城の関門」がいいかもしれません。「守衛所」はこの場合誤訳なのでやめた方がいいと思います。

“Spirit Way” については、「皇帝陵」というのは意訳でした。ただし、いずれにしても原訳の「魂の道」は嘘で、これは中国語の「神道」の直訳なので「墓の参道」くらいの意味です。おわかりのように参道自体は建築物の本体ではないのですが、前回書いたようになぜか欧米語ではこれ単体で認識しているらしく、観光地として入れない陵墓内よりもアクセスしやすいためか、それとも日本の鳥居のように特徴的に見えるせいかわかりません。モデルでは墓本体も一応見えるので「陵」としましたが、こういう背景なので他にも訳しようはあると思います。

「甕城」「内城」は他の問題もあるので他文明の同種の建物名と合わせて別に論じたいと思いますが、私も現在の訳を維持しようとは思っていません(かといって原訳も微妙なケースです)。

「千里眼」は個人的には仏教・道教的な人間の超能力のような印象を受けます。“all-seeing eye” はフリーメイソンのマークを指すのにも使われ、一神教の神の全知全能を表す典型的な比喩なので、正確性の観点からは「全知の目」を支持したいです。

また、Springald の議論がありましたが、確かに「弩砲」に統合してしまうのは少し勇み足だったかもしれません。ただしヨーロッパ中世で使われた狭義の Springald というのはこういうもので、ゲーム内のモデルとは全然似ないため、実際には前述の「着物」が服一般も指すように、このゲームでは自走式の弩砲(つまり投石機系ではないカタパルト)一般を指す広義の用法で使われているのかなと思っています。
その意味では上で言うような「可動式弩砲」とか「自走弩砲」というのもいいかもしれませんし、個人的には少し東アジア寄りかなと思いますが、「弩車」も提案させていただきます。(ただし Springald Emplacement のように明らかに固定されたものには言えないので、どうするか考えないといけません…)


Recap in English:

In general, I value most the historical accuracy of the terminology in translation, especially for a history-themed game. Although fluency and naturalness of wording should also be taken in account, I disagree with reducing to apparent falsehood for spurious ease of understanding. Especially when it comes to Chinese landmark names, the word-by-word conversion of English names would sound seriously out of context due to double translation. While I don’t insist on keeping every piece of current translation, some of old terms are clearly inappropriate in respect of accuracy.

My opinion in this comment:

[English]: [Current Japanese] → [Suggested Japanese] (× [Rejectable Japanese])

  • Double Broadax: 両刃まさかり → 両刃まさかり / 両刃手斧
  • Professional Scouts: 職業斥候 → 斥候訓練
  • Imperial Academy: 翰林院 → 翰林院 / 学士院 (× 帝国アカデミー)
  • Astronomical Clocktower: 水運儀象台 → 水運儀象台
  • Great Wall Gatehouse: 長城関 → 長城関 / 長城の関門 (× …の守衛所)
  • Spirit Way: 皇帝陵 → 皇帝陵 / 陵墓参道 (× 魂の道)
  • All-Seeing Eye: 全能の目 → 全知の目
  • Springald: 弩砲 → 自走弩砲 / 可動式弩砲 / 弩車 / 弩砲
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